ジェンダー法学会

提言・声明

  安全保障関連法案の即時廃案を求める声明

  提言:男女共同参画社会の形成に向けた民法改正

  特定秘密保護法の廃止を求める声明

  男女雇用機会均等法の抜本的改正を求める意見

  東日本大震災の救援・復興にジェンダーの視点を(提言)

  男女共同参画社会の発展を阻害する一部地方自治体の動向に憂慮する声明

  ジェンダー法学の役割と重要性に関する緊急声明


安全保障関連法案の即時廃案を求める声明

2015年8月10日 ジェンダー法学会理事会 理事長 小島妙子
 2013年12月22日、ジェンダー法学会理事会は、第二次安倍内閣が度重なる強行採決の混乱の中で成立させた特定秘密保護法に対して、廃止を求める声明を出しました。そのなかで、構造的なジェンダー不正義を是正する法改正や社会変革をめざす学会活動の前提として、「何人もかけがえのない個人として尊重され、暴力や不当な威圧を受けないという安全が保障される社会」が展望されなければならないと訴えました。
 ところが、安倍晋三首相はその後、自身の政治信条たる明文改憲が世論の根強い反対で当面不可能と感じるや、2014年5月15日、首相会見で集団的自衛権の限定的行使は合憲であるという見解を公表し、同年7月1日に実質的にその旨の閣議決定を行ないました。そして、11もの安全保障関連法案を衆議院に提出して一括審議に付し、2015年7月15日に特別委員会で強行採決しました。同関連法案は翌日衆議院で可決されて参議院での審議が始まりましたが、以下に述べるように、平和主義、立憲主義、民主主義、そしてジェンダー公正のすべての点において看過しがたい重大な問題を孕むものです。
 第一に、安保関連法案は、本年4月に改訂された「日米防衛協力のための指針」を実施するための国内法整備という性格を有しており、自衛隊が米国などの他国の防衛および他国の軍事行動と一体化した後方支援を世界中どこででも行なうことを可能にし、集団的自衛権の行使への道を開くものです。しかし、集団的自衛権の行使は、政府自身が憲法上不可能と、繰り返し述べてきたことであり、圧倒的多数の憲法学者を含む研究者、弁護士会、さらに歴代の内閣法制局長官が違憲であると表明しています。日本政府がこれまで一度も米国の始める戦争に反対してこなかったという事実に鑑みれば、グローバルに展開する米国の戦闘行為に自衛隊が参加する可能性は極めて高いといわざるをえません。他国の軍事行動と一体化した自衛隊の地球規模での武力行使に道を開く本法案は、平和憲法としての日本国憲法を完全に否定するものであり、決して許容されるべきではありません。
 ジェンダー公正の観点から看過できないのは、こうした日本の軍事化政策が、かつて日本が行なった戦時性暴力の事実を過小評価し歴史教科書から消し去ろうとする政治勢力によって推進されていることです。戦争は兵士の殺傷と人格破壊、子どもを含む民間人の犠牲などの悲劇を生みますが、露骨な人種・民族差別や性差別、とりわけ性暴力による女性の人権侵害をも引き起こしてきました。そうした歴史的事実に目をつぶり、まったく反省しようとしない日本政府に私たちは強い危機感を抱くものであり、戦争による性暴力を繰り返してはならないという観点からも安保法案に反対します。
 第二に、このように違憲性が明白な法律を制定しようとする行為は、立憲主義のルールを踏みにじって恥じない暴挙です。立憲主義は国家権力を国民の制定した憲法に従わせ、もって国民一人ひとりの生存と安全と自由を確保しようという人類が編み出した叡智です。それは法秩序の連続性を維持し、諸個人の自由と平等を保障する上での基礎であり、ジェンダー公正な法と社会の構築をめざすジェンダー法学会の研究・実践活動の拠り所でもあります。立憲主義を否定する国は、もはや法の支配する国家とはいえず、権力者の独善的意思の支配を許す国家であり、とりわけ社会的弱者の権利を侵し、その存在を排除する政策が恣意的に遂行される可能性の高い国家です。歴史的に不利な立場に置かれてきた女性や性的少数者に公正な法と社会の実現をめざす本学会にとって、法の根幹にある立憲主義の原則を否定することは絶対に認められません。
 第三に、安倍政権が、徹底して民主主義に反する仕方で安保法案を成立させようとしていることです。多数の法案を一括審議し、内容のない答弁を繰り返すなど、国権の最高機関である国会の審議を軽視する姿勢、つまり国民の代表である自らの政治的責任を回避する姿勢が極まっています。また、すでに各社の世論調査が示しているように、大多数の市民は今回の法案に反対であり、その内容を理解すればするほど、平和を維持するための法案とは程遠い、戦争に参加するための法案であることを認識し始めました。代表制民主主義は、有権者の声だけではなく、それにとどまらない幅広い市民の声をよりよく政治に反映するための仕組みです。代表者である議員は、憲法99条で課せられた憲法尊重擁護義務の下で、時に自らの信条や理念とは異なる市民の声にも耳を傾け、その声を政策へと反映していく責任を負っているのです。市民に対する責任、さらに憲法尊重擁護義務を無視する与党議員たちの政治責任の放棄は、民主主義を否定するものです。
 日本は、自衛隊の存在、日米安全保障条約による核の傘など、実際の政策との矛盾を孕みながらも、武力行使の放棄と戦力不保持を原則とする憲法の平和主義を貫き、その結果、武力によって他国の人民のみならず自国民をも殺傷しない長い戦後の歴史を築き上げてきました。また紛争地域における武装解除や平和構築に日本独自のあり方で貢献し、国際社会にも承認されてきました。こうした日本国憲法の下での平和国家のあり方は、同時に市民社会の「平和」をも生み出してきたといえます。市民社会の平和のなかには、遅々として不十分なものであるとはいえ、戦後日本の社会で進展してきたジェンダー平等と種々の性暴力規制も含まれていました。戦後長い時間をかけて築き上げられてきた平和国家と社会的平和をめざす歩みが、一部政治家たちの独断によって捨て去られてしまうことは、断じて認められません。
ジェンダー法学会理事会は、平和主義、立憲主義、民主主義、そしてジェンダー公正の実現に反する違憲の安全保障関連法案の即時廃案を、ここに求めます。


日本学術会議法学委員会ジェンダー法分科会他の「提言 男女共同参画社会の形成に向けた民法改正」を支持するジェンダー法学会理事会声明

ジェンダー法学会理事長 二宮周平 2014年7月5日
 ジェンダー法学会理事会は、日本学術会議法学委員会ジェンダー法分科会他が発表した下記の「提言 男女共同参画社会の形成に向けた民法改正」を支持することを表明いたします。

提言 男女共同参画社会の形成に向けた民法改正

2014年6月23日
日本学術会議法学委員会ジェンダー法分科会他

要 旨

1 作成の背景

 1999年の男女共同参画社会基本法の制定から15年目を迎えるが、性別と世代をめぐる社会環境が大きく変動しているにもかかわらず、社会の変化に対応する社会政策や法制度の改革は進まず、そのギャップがさまざまなひずみを生み出している。わが国はGDP(国内総生産)では世界第3位であるにもかかわらず、性別の変数を入れたGGI(ジェンダー・ギャップ指数)では135か国中105位と低迷し、国際的に見ても男女格差は著しい。
 日本学術会議は、一貫して、ジェンダー研究が男女共同参画社会形成に果たす役割と意義について明らかにし、研究の成果を立法や政策形成に還元する必要性を確認してきた。その中で、性差別的な民法規定の改正の必要性についても言及してきた。
 国際的にも、国連女性差別撤廃委員会から度重なる是正勧告を受けており、民法改正の実現は、女性差別撤廃条約締結国としてのわが国の責務である。
 2013年、最高裁違憲決定を受けて、ようやく、婚外子相続分差別規定が撤廃されたが、婚外子差別撤廃とともに、国連から緊急の課題として示された、それ以外の3点については、政府・立法機関による改正の動きは見られない。
 性差別を撤廃し、個人の多様な生き方を認めあう男女共同参画社会形成のためには、選択的夫婦別氏制度の導入などの民法改正が緊急に行われるべきと考え、第22期に設置されたジェンダー関連の4分科会は、民法改正を提言することとなった。

2 現状及び問題点

 1990年代、国民の価値観の変化や女性差別撤廃条約批准に伴う政府方針、諸外国の法整備の動向などを踏まえ、民法改正へ向けての動きがすでに開始されており、1996年法制審議会は「民法の一部を改正する法律案要綱」を公表した。しかし、選択的夫婦別氏制への反対論が根強く、政府案は国会には上程されないまま、20年近く経過した。
 また、政府の「男女共同参画基本計画」(第1次~第3次)では、少子化への対応や職業生活を送る上での障害の解消及び個人の選択肢の拡大が必要であるという認識の下、男女共同参画の視点から家族法制の検討を政策課題として掲げている。
 しかし、以上のような政府方針や国連女性差別撤廃委員会の度重なる勧告にもかかわらず、日本政府は、世論調査の結果を理由に、具体的な民法改正作業に着手してこなかった。
 住民票や戸籍の続柄記載、国際婚外子の日本国籍取得などの婚外子差別については、当事者が訴訟によって問題提起を行い、司法判断の結果、関連諸法や戸籍法の改正が行われてきた。
 これらの積み重ねを経て、2013年最高裁大法廷は婚外子相続分差別規定について違憲決定を出すに至った。最高裁決定を受けて、同年12月、婚外子の相続分を嫡出子の2分の1とする部分を削除するという民法改正が実現した。しかし、出生届の「嫡出子」「嫡出でない子」の区別を問う現行様式を改めるための戸籍法改正は行われなかった。ここには、司法判断がなければ法改正を行わないという立法府の姿勢が表れている。

3 民法改正の提言

(1) 提言の趣旨
 本提言では、①婚姻適齢の男女平等化、②再婚禁止期間の短縮ないし廃止、③選択的夫婦別氏制度の導入を提言する。これらは、2013年民法改正で実現した、婚外子差別の廃止と並んで、すでに、1996年の民法の一部を改正する法律案要綱で規定され、男女共同参画基本計画において検討事項とされているだけではなく、国連女性差別撤廃委員会からも是正勧告を受け続けている課題である。上記①・②・③についての改正は頓挫したままであり、今回の婚外子相続分規定廃止の民法改正を契機に、男女共同参画社会形成の視点から、①・②・③に関する法制審議会答申を早急に実現すべきことを提言する。
(2) 提言の内容
① 婚姻適齢の男女平等化
 現行規定は男性18歳、女性16歳に達しなければ婚姻することができないとしているが(民法第731条)、これには合理的理由はなく、性による差別である。男女の婚姻適齢を18歳に統一して、男女差別をなくすべきである。
② 再婚禁止期間の短縮ないし廃止
 現行規定では、女性は前婚解消の日から6か月間は、再婚することができないとしているが(民法第733条)、再婚後に出生した子の父が前婚の夫か、後婚の夫かわからなくなることを回避するためには6か月は不要であり、期間は短縮すべきである。さらに、離婚・再婚が増加している現在、婚姻をする権利に男女格差があることの不合理性と科学技術の進展を考慮すれば、再婚禁止期間は廃止すべきである。
③ 選択的夫婦別氏制度の導入
 現行規定では、婚姻時に夫または妻の氏を称するとしており(民法第750条)、これは夫婦同氏の法的強制を意味する。形式的には性中立的な規定であるが、実際には96.2%が夫の氏を選択しており(2012年)、男女間に著しい不均衡を生じさせている。氏は単なる呼称ではなく個人の人格権と切り離すことはできず、夫婦同氏の強制は人格権の侵害である。個人の尊厳の尊重と婚姻関係における男女平等を実現するために、選択的夫婦別氏制度を導入すべきである。
*提言の詳細にわたる全文は、下記の日本学術会議HPに掲載されていますので、ご参照ください。
 →http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-22-t193-5.pdf


特定秘密保護法の廃止を求める声明

2013年12月22日 ジェンダー法学会理事会
理事長・二宮周平
 ジェンダー法学会は、あらゆる法分野・法領域をジェンダーの視点からより深く研究することを目的に設立された学会です。わたしたちが共有する目標は、個人が男女という性別によって自己の生き方を限定されることのない、ジェンダー平等な社会を実現することです。それと同時に、「その前提として、何人もかけがえのない個人として尊重され、暴力や不当な威圧を受けないという安全が保障される社会を展望」することをも共有しています(学会設立趣意書より)。
 2013年12月6日、度重なる強行採決の混乱の中で成立した特定秘密保護法は、わたしたちが暴力や不当な威圧から自由で安全な社会を展望することを妨げ、ひいてはジェンダー平等な社会の実現を困難にするものであると考えます。ゆえに本学会理事会は、特定秘密保護法の成立に強く抗議し、特定秘密保護法の速やかな廃止を求める意思を表明します。
 国会審議等で明確にされたように、特定秘密保護法は、憲法の定める基本原則にことごとく対立する内容を持っています。国民主権の前提は、政府が何をしようとしているか、何をしているのかを国民が知ることですが、その最も重要な情報を刑罰の脅しでほぼ無際限に隠すことのできる同法は、国民主権の前提を掘り崩すものです。それは、政府の情報を市民が知る権利、報道機関が取材し報道する権利という、憲法が保障する基本的人権の中でも特別な位置を占める主権的権利を危機にさらすことをも意味します。福島原発事故は、政府が国民の生命と安全に関する情報すら隠すこと、多くのマスメディアがあたかも政府見解の広報機関と化すことを明らかにしましたが、特定秘密保護法は、政府のそうした秘密体質やマスメディアの迎合傾向にいっそう拍車をかける危険性があります。
 特定秘密保護法はまた、憲法の平和主義の全面改定を目指す改憲構想の重要な柱として位置づけられています。集団的自衛権の行使を解禁する自民党の日本国憲法改正草案および国家安全保障基本法案(概要)は、いずれもそれと併せて秘密保護法の制定を明記していました。しかし、そうした安全保障の構想が、自国を安全に保つどころか、絶えず戦争を引き起こし、他国も自国も戦争に巻き込む危険を内包していることは、ほかでもない日本の歴史が証明するとおりです。戦争と軍隊がまた、男性性と女性性を刻印された支配と暴力を生み出すことも、戦場での集団性犯罪、戦時性奴隷制、基地買春などによって示されています。
 これに対して、憲法の平和主義は、日本が歩んだ植民地主義と侵略戦争の反省の上に立ち、世界で現在も続く軍事主義の諸矛盾を克服する道を示していると考えます。憲法前文は、「恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利」を、日本国民だけではなく「全世界の国民」がひとしく有することを確認しています。その上で、軍事力によってではなく、「平和を愛する諸国民」との連帯の力を通じてわたしたちの「安全と生存を保持」するとしています。それは、かつて日本が侵略して甚大な被害を与えたアジア諸国との共存を可能とするための、そしてだれもがかけがえのない個人として尊重され、ジェンダーに基づく差別と暴力から自由な世界を築くための、きわめて理性的で現実的な方法です。特定秘密保護法およびそれと一体となって進められつつある改憲構想は、そうしたわたしたちの社会展望を失わせるものであり、断じて認めることはできません。
 さらに特定秘密保護法は、特定秘密の対象を防衛、外交と並んで特定有害活動の防止とテロリズムの防止に関する事項にまで広げており、同法に基づく捜査当局の摘発は、反核、脱原発など自由・平等で持続可能な社会を築こうとする市民運動を弾圧することに利用される危険性があり、市民運動を委縮させ、社会的少数者の視点と社会の批判精神を閉ざしてしまうのではないかと危惧します。
 本学会理事会は、憲法の諸原則を掘り崩し、市民社会の発展を阻害し、ジェンダー平等社会への展望を困難にする特定秘密保護法の成立に強く抗議し、その速やかな廃止を求めます。
(以上)

男女雇用機会均等法の抜本的改正を求める意見

2013年4月18日
ジェンダー法学会理事会有志
(理事長 二宮周平)
1  男女雇用機会均等法が施行されてから30年にもなろうというのに、日本の女性の経済的地位は後退している。世界経済フォーラムによるジェンダーギャップ指数は、2012年に調査対象135カ国中101位と前年より3位低下した。OECDの2012年のレポートでも、男女賃金格差は韓国に次いで大きく、加盟国平均16%に対し日本は29%、40歳以上の層では40%、子どもがいる男女の賃金格差は加盟国中で最大の61%であることが指摘されている。高学歴の女性ほど結婚・妊娠・出産によって退職し、その後も職場に復帰しない。職位の男女間格差も大きく、上位にいけばいくほど女性比率が低い。上場企業の役員のなかで女性はわずか5%にすぎない。
2  男女間賃金格差は、雇用における様々な場面での性差別が凝縮したものであって、募集・採用から定年・退職・解雇に至る性差別を反映している。しかしながら、男女雇用機会均等法は、性別による賃金差別問題を対象事項に含んでおらず、労働基準法4条は男女賃金格差の是正にあたり効果的に機能していない。
また、日本社会では性別役割分業が強固である。女性は家族のための無償労働に費やす時間が男性より圧倒的に多く、一方、有償労働に従事する時間は男性に偏っている。したがって、育児・介護休業法による権利保障や子育て支援等の社会政策にもかかわらず、女性労働者の6割が妊娠出産により職業を中断している(そのうち1割を超える労働者が解雇されている)。退職した女性が再び常勤労働者として安定した所得を得ることは著しく困難であり、女性は低賃金・非正規雇用でしか復帰できていない。加えて、世帯単位の税・社会保障制度が、被扶養者になっている女性の仕事へのモチベーションを減退させ、課税最低限ないし第三号被保険者認定基準の範囲内で就労=収入調整する傾向に流れており、低賃金労働者は女性に集中している。
3  これらの問題を直視すれば、男女雇用機会均等法の抜本的見直しは喫緊の課題である。しかるに、労働政策審議会雇用均等分科会において、統計データ上の顕著な男女間格差や、妊娠・出産を機に職業を中断する女性が多いことについて、法の周知不足や意識の問題にすぎず、法の見直しは必要ないとする意見が唱えられていることには、重大な危惧を抱かざるを得ない。差別を可視化し、その解消に向けて不断の努力を払わなければ、日本の男女格差は一層大きくなるに違いない。格差を、個人の努力や意欲の問題と見てしまうのは誤りである。
4  定年・退職・解雇における性差別を禁止しても、結婚・妊娠・出産によって辞める女性が少なくないのは、結婚・妊娠・出産により女性を排除してしまう職場環境や制度に問題があるからである。このことは、総合職女性の退職理由を調査した結果からも明らかである(財団法人21世紀女性職業財団「大卒者の採用及び総合職女性の就業実態調査」(2000年)によれば、「仕事と介護の両立のための制度が不十分」(44・3%)、「男性優位の企業風土」(34・6%)、「職場の受け入れ体制、上司の意識に問題がある」(28・9%)、「残業時間が多く自分の時間が少ない」(28・8%)と続いているが、こうした風土・環境・制度はその後の均等法改正によっても変わっていない)。企業は、男女労働者の家族的責任に関するニーズに応える制度を十分に整えるだけでなく、女性がチャレンジしても報われない職場慣行や、より良い仕事と生活への希望を失わせるような職場の「風土」「受け入れ体制」「上司の意識」などの職場環境を根本から改善して、女性の可能性を活かすことに目を向けるべきである。
5  男女格差は、明白な性別による区別・排除から生じているだけでなく、性に中立的であっても、結果的には男女の待遇に格差を生じさせて女性を不利な状況にとどめてしまうような基準から生じており、さらに、仕事と生活の両立を男女平等に確保するための配慮が不十分であることから生じている。女性が低賃金職に集中する傾向も、性別役割分業が強固な社会状況を反映して、女性が集中する職業・職域では「家計補助的」レベルの市場賃金が形成されてきたことによる。同じように、女性が集中している「非正規雇用」の雇用や処遇における不利益も、性別格差として把握する必要がある。 今回の均等法の見直しにおいては、改善されない男女間賃金格差を解消することや、縦割り行政の枠を撤廃して労働基準法4条を効果的に機能させることについても、検討を加えるべきである。男女平等は、女性に対する人権保障の基盤であって、労働基準法4条と男女雇用機会均等法をより実効的に機能させること、雇用におけるジェンダー格差を解消するために法制度を抜本的に変革することが、労働政策の中心に据えられるべきである。
6  国際社会は、経済と産業を活性化させるためには、女性の力をあらゆる分野に活かし、ワーク・ライフ・バランスを徹底するよう、日本に警告を発している。「経済の活性化には男女平等が不可欠」という議論はもはや否定しえないところとなっており、男女雇用機会均等法の見直しこそ、何より優先されるべき法政策である。
7  以上の観点から、今回の男女雇用機会均等法の見直しにあたっては、以下の7点にわたり、法改正を行うべきである。
(1)男女が平等にワーク・ライフ・バランスを享受できるようにすることは、雇用における男女平等の実現にとって不可欠の課題である。したがって、均等法の趣旨目的の中に、「仕事と生活の両立が男女平等に保障されること」を明記すべきである。
(2)均等法は差別の定義を明らかにしていない。女性差別撤廃条約第1条に定める定義(「女子に対する差別」とは、性に基づく区別、排除又は制限であって、・・・・いかなる分野においても、女子・・・が男女の平等を基礎として人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを害し又は無効にする効果又は目的を有するものをいう。)を、均等法の中で禁止されるべき差別として明文化すべきである。
(3)性中立的に見えても、適用した結果男女間に賃金格差を生じさせるような不合理な基準(「世帯主」「主たる生計維持者」などの間接性差別となる基準)を解消できるように、間接差別となる基準を限定列挙している男女雇用機会均等法7条及び関連規則・通達を改正して、限定列挙を例示列挙とすべきである。
(4)雇用管理区分や雇用形態の違いを理由とする不合理な待遇差別は、全面的に禁止されるべきであり、そのために、「雇用管理区分」ごとの男女間差別に限定して差別を解消するという男女雇用機会均等法の規制枠組みは撤廃されるべきである。
(5)女性がこれまで担ってきた仕事や役割の価値を、客観的で性中立的な評価基準に基づいて再評価し、その結果を賃金等待遇格差の是正に反映させる仕組みを作るべきである。それは、ILO100号条約が要請することでもあり、女性の雇用における地位向上とともに、ワークシェアリングを促進させる不可欠な条件だからである。
(6)女性が結婚・妊娠・出産によって就労の機会を失うことがないように、救済の仕組みをより実効性のあるものとすべきである。また、ハラスメントを明確に法的禁止事項とし、男女を問わず労働者がハラスメントから心身の健康を守るために就労を停止し、療養のために一定期間休業したり、その後職場に復帰して働く権利を保障すべきである。これらの権利を具体的に確保するうえで、職場内のハラスメント対策・苦情解決手続きを強し、さらに、現在の機会均等調停委員会をより強力な解決能力のある救済機関とすべきである。
(7)賃金等待遇の格差を解消するツールとして、実態の把握、原因の究明、労働者に対する説明を企業に義務づけ、格差解消に向けた労使の取り組みを促進させる「ポジティブアクション」を制度化すべきである。
 以上、日本におけるジェンダー格差の深刻な実態を直視し、法の見直しに向けて真摯な議論をすすめるよう、強く求めるものである。
(2013/05/02 更新)

東日本大震災の救援・復興にジェンダーの視点を(提言)

2011年5月11日
ジェンダー法学会理事会
(理事長 辻村みよ子)
 2011年3月11日の東日本大震災および福島第一原子力発電所事故によって被災・避難された多くの方々並びに関係者の皆様に心よりお見舞い申し上げます。避難所支援や復旧・復興への取組が進み、原子力発電所事故が一日も早く収束しますことを心より願っております。
 さて、震災から2か月近くを経てなお、被災地や避難所の現状からは、女性への支援物資、プライヴァシーの保護、妊産婦の栄養補給、子どもの教育と精神衛生、性暴力とセクシュアル・ハラスメントの防止、高齢者・障がい者・外国籍者の支援等において、多くの課題が山積していることが看取されます。
 これらの問題は、いずれもジェンダーやセクシュアリティ、人権に関わる重要な課題でもあります。安全の確保や防災・復興等の取組については、男女の性差や男女共同参画の視点を踏まえた体制を確立することが不可欠です。
 とくに、昨今の復興構想会議や各地の防災・復興会議等では旧来の男性中心の構成がとられる傾向にあり、女性の人権やジェンダー平等の視点が不足することが危惧されます。
 今後の復興やコミュニテイの形成、防災・復興会議等の運営にあたって、男女共同参画社会形成やジェンダー平等の視点に立った取組が行われ、人権の保障が最優先されることを、国や地方自治体、防災・復興会議関係者、地域復興活動関係者・自治会長・地区長等の皆様に対し、強く希望する次第です。
(2011/05/19 更新)

ジェンダー法学会理事会声明

男女共同参画社会の発展を阻害する一部地方自治体の動向に憂慮する声明

2008年2月7日
   2007年12月17日に、松山市議会は、請願35号「松山市男女共同参画推進条例の運用の基本方針を明確にすることを求めることについて」を採択した。その請願事項10には、「松山市はジェンダー学あるいは女性学の学習あるいは研究を奨励しないこと」とある。ジェンダー法学会は、このことに対して重大な懸念を表明する。
   ジェンダー法学会は、法学をジェンダーの視点から研究・討議することを目的として、2003年に設立された、日本学術会議の協力学術研究団体である。2008年1月現在、学者・弁護士・司法書士・地方自治体職員・大学院生など男女330名が、会員として、研究と実務の架橋を目指して真摯に学術活動を展開している。その立場から、上記の請願は、男女共同参画社会基本法および憲法の規定に反する重大な問題をはらんでいるものと考える。
   男女共同参画社会基本法第18条は、「国は、社会における制度又は慣行が男女共同参画社会の形成に及ぼす影響に関する調査研究その他の男女共同参画社会の形成の促進に関する施策の策定に必要な調査研究を推進するように努めるものとする」と規定する。さらに第9条が、「地方公共団体は、基本理念にのっとり、男女共同参画社会の形成の促進に関し、国の施策に準じた施策及びその他のその地方公共団体の区域の特性に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する」と規定していることから、地方自治体もまた男女共同参画社会の形成に関する調査研究を推進する責務がある。
   ジェンダー学あるいは女性学は、男女の役割を固定化し、女性の就労や昇進の機会を制限し、家事・育児・介護を事実上強いてきた社会の仕組みを明らかにして、女性も男性も個人としてその意欲と能力を発揮できる社会をめざそうとする実践的な学問であり、まさに男女共同参画社会の形成の促進に寄与する学問にほかならない。こうした学問の学習や研究を奨励しないことという請願事項は、男女共同参画社会基本法の規定に反するものである。
   また、地方自治体が、特定の学問について学習や研究を奨励しないという請願を採択することは、その学問研究に対する誤った理解を助長し、学問研究の遂行に悪影響を及ぼす点で、憲法第23条が保障する学問の自由を侵害するものである。請願者自らが請願事項9に掲げている「表現の自由及び思想信条の自由を侵さないこと」にも反している。
   ジェンダー法学会は、このような一部地方自治体の動向を憂慮し、すべての地方自治体が、学問の自由を保障し、男女共同参画社会基本法の趣旨および規定にのっとって、条例を運用し、男女共同参画拠点施設の管理・運営にあたることを願うものである。

    理事長 浅倉むつ子(早稲田大学)
    事務局長 二宮周平(立命館大学)
    理事:
    阿部浩己(神奈川大学)、安藤ヨイ子(福島県弁護士会)、井口博(東京第2弁護士会)
    伊藤和子(東京弁護士会)、犬伏由子(慶應義塾大学)、井上匡子(神奈川大学)
    内野正幸(中央大学)、戒能民江(お茶の水女子大学)、神尾真知子(日本大学)
    神長百合子(専修大学)、川真田嘉壽子(立正大学)、金城清子(龍谷大学)
    小島妙子(仙台弁護士会)、後藤弘子(千葉大学)、榊原富士子(東京弁護士会)
    武田万里子(津田塾大学)、棚村政行(早稲田大学)、辻村みよ子(東北大学)
    角田由紀子(静岡県弁護士会)、寺尾美子(東京大学)、中里見博(福島大学)
    長谷川京子(兵庫県弁護士会)、林陽子(第二東京弁護士会)、広渡清吾(東京大学)
    松本克美(立命館大学)、道あゆみ(東京弁護士会)、三成美保(摂南大学)
    山下泰子(文京学院大学)、横田耕一(流通経済大学)、吉田克己(北海道大学)
    吉田容子(京都弁護士会)
    監事:
    岡野八代(立命館大学)、満田康子(東京家裁調停委員)


「声明」が愛媛新聞に掲載されました

【愛媛新聞 2008年2月9日記事】
「松山市男女共同参画条例 運用請願採択に懸念 ジェンダー法学会が声明」
 愛媛新聞2008年2月9日がジェンダー法学会の声明を記事として取り上げました。内容は、松山市議会が昨年12月、松山市男女共同参画推進条例の運用基本方針に関する請願を採択したことに対して、ジェンダー法学会が懸念を表明する理事会声明を出したこと、その理由として、「市はジェンダー学や女性学の学習・研究を奨励しない」との請願項目は、「男女共同参画社会基本法や憲法の規定に反する」としていること、ジェンダー学や女性学は男女共同参画社会の形成促進に寄与するものであって、地方自治体が特定の学問を奨励しないという請願の採択は誤った理解を助長し、学問研究の遂行に悪影響を及ぼし、憲法23条が保障する学問の自由を侵害することがあげられ、学問の自由を尊重し、同基本法の趣旨や規定にのっとった条例運用を求めているものであると紹介されています。そして、松山市議会議長と市男女共同参画推進財団理事長に声明を送付したことも記されました。

ジェンダー法学の役割と重要性に関する緊急声明

2005年7月25日
ジェンダー法学会  理事会有志

  20世紀の最後の四半世紀には、国際女性年と国連女性の10年(1975-1985年)の取組み、女性差別撤廃条約の採択(1979年)、国連世界女性会議の開催など、多くの成果が重ねられてきた。こうした成果は、国内外の広範な市民運動の展開と問題意識の深化をもたらし、日本でも、固定的な性別役割分業を見直す必要性が認識されるに至った。男女共同参画社会基本法(1999年)をはじめとするジェンダー平等社会(gender equal society)の実現をめざす法制度は、個人が男女という性別ではなく、その人の意欲・能力・適性にもとづき自己の生き方を選択できる社会、何人も暴力や不当な威圧を受けることなく個人として尊重される社会を展望しようとするものである。
  しかし他方で、司法界をはじめ法律関係分野にはなおジェンダー・バイアス(性別・性差に由来する固定観念や偏見)が存在し、目標とする社会と現実のギャップは大きい。性別役割分業に基づく従来型の社会への回帰をめざす風潮も根強く、男女共同参画社会の形成を阻む要因や社会構造はなおも堅固であるといえる。
  このような状況下では、性差に由来する不平等や差別が生じた社会的背景、それを支える法制度を構造的・批判的に分析し、これからの時代にふさわしい個人と社会の関係を考え、両性の平等が実現する社会を築くために不可欠な法・制度のあり方を検討する学問研究、とりわけ法学の視点に立った分析・研究が重要な意義をもつ。
  そこで、法学をジェンダーの視点からより深く研究すること、研究と実務との架橋をすること、ジェンダー法学に関する教育を開発し深めることという3つの目的を掲げて、ジェンダー法学会が2003年12月に設立された。ここにはあらゆる法分野・法領域の研究者と実務家が300名以上集まり、多面的な研究成果からの刺激を受けつつ、各自の専門領域を超えて、学際的にジェンダー法学の課題に取り組んでいる。法学におけるジェンダーに敏感な視点の重要性は改めていうまでもない。ジェンダーに敏感な視点に立った研究・実務を進めることにより、本学会では、「女性に対する暴力」問題など、近代社会における法体系が十分対応してこなかった問題に対する反省や考察を含めた貴重な研究成果を蓄積しつつある。
  ところが、最近、一部のメディアや政治的言説のなかに、ジェンダー学、男女共同参画の理念を曲解する動きが目立ち、一部にはジェンダーという用語の使用を制限すべきという主張すらみられるようである。これは先に示した国際的動向や男女共同参画社会基本法に照らして、非常に不可解な主張であるといわざるを得ない。ジェンダーは、社会的・文化的性別を示す言葉としてすでに十分な了解を得た学術的用語であり、階級や民族といった従来の分析概念とならんで、ジェンダーに敏感な視点なしには、人間存在の多様性に配慮した豊かな分析・認識はありえない。法学においても、ジェンダーに敏感な視座や視点は、これまで見逃されてきた、法律学に潜むジェンダー・バイアスを克服するために、非常に重要な観点であることは間違いない。
  われわれは、今後とも高等教育におけるジェンダー法学の普及をはかっていく必要があるという認識のもとに、すべての研究者、法曹実務家、政策担当者、教育関係者、マスコミ関係者等と協力して、大学や法科大学院等におけるジェンダー法学の確立と普及を図り、各専門領域における「ジェンダーに敏感な視点」にたった研究成果の相互浸透を促進して、ジェンダー法学の意義と役割を一層明確にするように努めることを表明する。